
伊勢神宮内宮の年越しの大祓。2006年12月31日に撮影された記録写真です。
この記事の目次
倭姫命(やまとひめのみこと)は、天照大御神を祀る地を求めて巡り、伊勢へ導いた皇女として伝えられます。神宮の鎮座伝承と、日本武尊に剣を授ける古事記の場面、倭姫宮の祭神としての姿を紹介します。

倭姫命は、天照大御神を祀る皇女
伊勢神宮の公式案内では、第十一代垂仁天皇の皇女として紹介されます。天照大御神の御杖代として巡ったと伝えられますが、倭姫命自身が天照大御神の別名ということではありません。祀られる神と、奉仕する皇女の立場を分けると、由緒の筋が分かります。
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豊鍬入姫命から、祀る地を求める役目を受け継ぐ
神宮の鎮座伝承では、まず崇神天皇の皇女・豊鍬入姫命が、大和の笠縫邑で天照大御神を祀ります。その後、倭姫命が交代し、大和を出て伊賀・近江・美濃などを巡り、伊勢へ至ったとされています。
一人の皇女がすべての行程を行ったように縮めると、二人の名前と役目を取り違えてしまいます。巡行地の説明にも文献ごとの差があるため、地名の一覧を作るときには出典を添えたいところです。
『日本書紀』の伊勢鎮座と、後世の伝承
神宮の案内は、『日本書紀』に、天照大御神が伊勢を鎮座の地とする意を示し、倭姫命が五十鈴川の上流に宮を建てたとあることを紹介しています。ここに、現在の内宮へつながる由緒が語られます。
一方、各地の詳しい巡行や祭祀の由来には、『皇太神宮儀式帳』や後世の『倭姫命世記』など異なる資料も関わります。すべての説明を奈良時代の『日本書紀』に書かれていることとして引用するのは避けましょう。
『古事記』では、倭建命に剣と袋を授ける
『古事記』では倭比売命という表記で、伊勢の大神を祀る皇女として登場します。東征へ向かう甥の倭建命が訪れると、草薙剣と袋を授け、急な事態のとき袋を開くよう伝えます。
この袋の火打ち石が、後の火攻めの危機を切り抜ける場面につながります。伊勢へ鎮座地を定める話と、旅立つ甥を支える話を、資料ごとに読むと人物の役割が立体的になります。
倭姫宮では、倭姫命自身を祀る
伊勢市楠部町にある倭姫宮は、皇大神宮の別宮として倭姫命を祀ります。内宮で天照大御神をお参りすることと、倭姫宮でその奉斎に関わる皇女をお参りすることは、同じ参拝先を違う名で呼ぶものではありません。
神宮の公式域内マップは、倭姫宮を神宮で最も新しく創建された宮として案内しています。古い神話の人物を祀る宮でも、現在の宮の創建時期は別に確かめる必要があります。
名前の表記と、伝承の読み方
倭姫命・倭比売命という字の違いは、引用元を確認する手がかりです。皇女として古典に登場し、現在は祭神としても祀られる人物であり、天地初発に成った神々と同じ登場の仕方ではありません。
天照大御神の解説や弟橘比売命の物語とあわせて、伊勢から東国へ進む物語をたどれます。
皇居を離れた奉斎が、伊勢へ落ち着くまで
伊勢神宮の公式史は、天照大御神を皇居の外で祀るようになり、豊鍬入姫命から倭姫命へ奉斎の役目が受け継がれる流れを伝えます。倭姫命は大和を出て伊賀、近江、美濃などを巡り、伊勢へ入ります。場所を一度に決めたという話ではなく、神を祀り続ける土地を求める旅として描かれています。
倭姫命が祀る神と、祀る役目を担う倭姫命自身は、ここで別の存在です。天照大御神が伊勢へ鎮まる物語を、倭姫命が天照大御神そのものへ変わる話と取り違えないようにします。
旅立つ甥へ渡す、剣と袋の二つの助け
『古事記』の倭建命の物語では、倭比売命は、さらに遠征へ向かう甥の嘆きを受けとめます。渡すのは草薙剣だけでなく、危急の時に開くよう告げる袋です。後に火攻めに遭った倭建命は、その贈り物を使って危機を切り抜けます。旅立ちの場面で渡されたものが、離れた土地で力を発揮する構成です。
神を祀る土地を求める旅と、皇子の旅立ちを支える場面には、どちらも伊勢が関わります。日本武尊・倭建命の東征を、贈り物の行方に注目して読むと、倭姫命が物語の外側で見守るだけの人物ではないと分かります。
倭姫宮では、導いた皇女自身が祀られる
伊勢市楠部町の倭姫宮は、倭姫命を祀る内宮の別宮です。神宮の公式案内は、神宮の中で最も新しい創建の宮とも紹介しています。古代の鎮座伝承と、その皇女を祀る宮が設けられた歴史は、同じ年代の出来事ではありません。
周辺には、祭祀や農業、奉納された美術工芸を紹介する神宮の博物館もあります。内宮で誰を祀り、倭姫宮では誰を祀るのかを知って訪ねると、神と、その祭祀を担った人への敬意という二つの視点から伊勢を歩けます。

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